• 色彩感覚

    また、母の正確で格調高い英語には、英国使節も驚いたそうです。長くアメリカで暮らしていたので、結婚式の招待状が父宛に来ると、夫人同伴が当たりえ前のアメリカ式にならって自分も招待されたと思い込み、黒い江戸棲に丸帯姿で父と意気揚々と同行し、会場の入口で、「奥様はご招待申し上げておりませんので、大変お気の毒ですが、お引き取りください」といわれたと、つまらなそうに引き返してきたこともたびたびでした。私が黒田に嫁いだころには、すでに絵は描かなくなっていましたが、私の主人である息子の描いたものの批評などは堂に入っていましたし、色彩感覚は抜群で、私の服装の色のバランスについては、ことのほかやかましく、白い洋服に濃い赤い花などをつけると、田舎娘みたいだといって、自分の手箱からオーキッドカラーのブローチを持ってきて、これをつけなさい、と渡してくれたりしました。口紅でも、気にいった色のものをつけている方を見ると、未知の人なのに買い求めた店の名をわざわざ聞いて、私に買ってきてくれたりしました。このように知らない人にでも平気で口をきける人でした。自分が外出するときでも、門を出てから、太陽光線で見ると、羽織の紐と帯留の色が調和していないから取り替えてくるといって、さっさと家に戻っていくのでした。